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ダイアログ・イン・ザ・ダーク in 東京(3)

おじいちゃんの家に着きました。
我々は縁側のほうから来たようです。
縁側で靴を脱ぎ、座敷に上がります。
畳の匂い、そして感触。
ちゃぶ台やその上にある果物。
机の上にある鉛筆や鉛筆削り。
何かを見つけるたびに、声を出して情報を共有します。
靴を脱いだらもう一度ちゃんと自分の靴を履けるのか不安だったので私は持ってあがったのですが、何人かは持たずにあがり、ちゃんとその後も履けたようです。

さらに、ブランコに乗ったりしながら歩みを進めていると、足元の感触がぼこぼこ。
「あ、これは点字ブロックじゃない?」
さとちゃんが答えます。
「あ、やまださんよくその名前を知っていましたね。うれしいです。」
点字ブロックを視覚のない状態で踏みしめると普段よりずっとしっかりとした感触がします。

さとちゃんが続けます。
「そろそろ皆さんしゃべり続けてのどが渇いたでしょう。僕のなじみのバーがあるのでご案内しましょう。」
皆の気配を感じながらおそるおそるついていくと、バーテンダーがいました。
「さぁ、ここにイスがあります」
そういってイスの背もたれ部分を私に触らせてくれました。
自分がどんな場所のイスに座ったのかもわかりませんが、前にある机がどれくらいの大きさなのかも分かりません。
しかし、8人がおそらく一つの長方形っぽい机を囲んで座っていることがお互いの情報などからわかりました。

「ようこそ「バー暗闇」へ」
そういって、バーテンダーはメニューを読み上げました。
「ビール、ワイン、リンゴジュース、ウーロン茶どれがよろしいですか?ここでは、手を上げて人数を把握することが出来ないので、声で確認します。」
「ビールの方」
「はい!」「はい!」
「お2人ですね。」
そんな感じで、オーダーを確認していきます。
私はさきほどバーテンダーが手を上げてもわからないといったのに、「はい!」といったときに手を上げてしまいました。
でもそれが分かった人はもちろんいません。

リンゴジュースをオーダーしたのですがその味はおそらく果汁100%のものだったと思います。
意外と嗅覚や味覚だけでもわかるものです。
ビールの方はちゃんとバーテンダーからついでもらっていました。
「えー!どうしてわかるのー?」
いっせいに声が上がりました。
答えは教えてくれなかったのですが、ビールなど特に泡があとからでてくるものをどうやってこぼさずについでいるのでしょうか。不思議です。
そこで、矢田さんがふと別の疑問を投げかけます。
「ここってさー、俺はなんか落ち着いた感じのバーなんだと想像してるんだけど、もしかしたら全然違ったりするのかなー。」
ゆかっちが言います。
「理科室みたいな感じかな?」
私は市立図書館みたいな場所の喫茶室、もしくはお遊戯室みたいな場所に炊事場があるようなイメージをしていました。炊事場というのは、バーテンダーがコップを洗っている音がしたからです。。

皆が一息ついたところで、さとちゃんは質問をしました。
「さて、皆さん、今でどれくらい時間がたったのかわかりますか?」
え?そういえば、時間の感覚が。
「15分?」
「30分くらいかな」
「1時間くらい」
皆バラバラです。私は40分くらいかなと思っていたのですが、さとちゃんは「ええっと、今で50分くらいですね。」と答えました。
「なんでわかるの?」
「それはあとで教えますね」といって、さとちゃんは皆を次の場所へ案内し始めました。

「次の場所はここより明るい場所になります。暗闇はここで終わります。突然明るい場所に出ると目によくないので、徐々にならしていきます。」
そういってさとちゃんはカーテンをあけ、皆を次の部屋に案内します。
そこにはさきほど目にした暖かな光の間接照明がありました。
暗さも先ほどとは全然違います。
ここでやっと皆の姿を改めて目で見ることになりました。
入る前は他人だったのに、ここではみんなもう仲間になっています。
でも、声を覚えていたから、目で見ると自分の中のイメージと違うことに気づきびっくり。
少なくとも、ペンギンくんが帽子をかぶって眼鏡をかけていることには気がつきませんでした。

用意されていたイスに円を囲むように腰掛けると、さとちゃんがこういいました。
「皆さんイスに座りましたか?すみません、どなたか僕を残りのイスに案内してください」
暗闇では我々を案内してくれたさとちゃんを佐々木さんがイスまで案内します。
さとちゃんは「さっきまで僕が案内する側だったのに一気に逆転ですね」
その言葉はシンプルですが、すごく考えさせられる言葉でした。

薄暗い中で膝をつき合わせて8人とさとちゃんがすわり、さとちゃんが「さぁ、ここで少し感想や質問を聞かせてください。」というと、皆がいっせいに感想を述べ始めました。
それは、暗闇の中で感じた様々なことでした。
暗闇では声がないとどっちにあるいているのかわからない、とか、声の距離でだいたいの距離感がつかめるといったこと、ビールをどうしてこぼさずにつげるのか、といったこと、そしてさとちゃんに対する質問など。

そうそう、どうして時間がわかるのか、についても教えてくれました。
さとちゃんは、高校生くらいまであまり時間を意識してなかったそうですが、今は時計を持っています。それはガラスのふた部分があけられて直接短針と長針をさわれるものです。
それで時間を知るそうです。
さわりたい、とゆかっちがいったのですが、「これはさわるとすぐに針が動いてしまうので・・・すみません」とやんわりと断っていました。
さとちゃんにとっては時計は自分の状況を知る大事な道具の一つなのですね。
私はそれと同時に想像以上に我々は時間を視覚で認識していることを知りました。
街のいたるところに時計はあります。
それを無意識に我々は見ている、そして目に見える時間というものに縛られている。
そう思いました。

「次の部屋にアンケートを書く場所があるので、そこでぜひ今日の感想をおしえてくださいね」とさとちゃんはいい、僕はここまでとなります。ありがとうございました。とおじぎをして去っていきました。皆は最初とは違う大きな声で仲間にお礼と別れを告げました。
そう、いつのまにかさとちゃんはこの暗闇の旅を通じて仲間になっていました。

アンケートを書き、カーテンをくぐると、そこにはさきほどの明るい待合室。
すべてが異様に鮮やかにはっきりと見え、溢れかえる情報量に戸惑いを覚えるような、でもとても懐かしいような感覚に襲われました。

帰り道、渋谷駅で点字ブロックをみつけました。
想像以上に点字ブロックは不親切で、そして街は視覚障害者に優しくはありませんでした。
見えていると気にならないことでも、視覚障害者には非常に苦労のいることかもしれません。
何か自分の中でもそういう意識を身につけられたことはとてもよいことだったと思います。
あと、視覚を完全に遮断された世界はもっと閉塞された世界だと思っていました。
だけど、視覚を遮断された世界は他の感覚を研ぎ澄まし、そして感性を豊かにすることのできる世界であることを知りました。
目で知る世界とはまた違う広大な世界がそこには確実にあります。

下手なエンタテイメントよりずっとエキサイティングでかつ意味のある体験です。
興味のある方はぜひ。

ダイアログ・イン・ザ・ダーク
2009.03.26 Thursday | 14:04 | comments(0) | trackbacks(0) | おでかけ |