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ダイアログ・イン・ザ・ダーク in 東京(2)

係員は説明を終えると、自分がこの入り口までの案内であること、更にこの先にあるカーテンから向こうはアテンダントと呼ばれる人が案内してくれることを告げました。

そこに体の大きな男性が現れました。
彼は「佐藤さん」(←漢字は間違っているかも)で、みんなからは「さとちゃん」と呼ばれています、と自己紹介をしてくれました。
そして、さとちゃんは我々にも自己紹介をするように促します。
皆さんの名前と声を覚えるために、と彼は言います。
あ、そうか、見えないということは名前と顔を一致させるのではなく、名前と声を一致させる作業をしなければならないのです。
薄暗い中で自己紹介とは人生で初めての体験。
それぞれが自分の名前やニックネームを告げます。
私が参加したグループは先ほどのメンバーです。親子連れの女性はお子さん2人と参加です。
呼び名をどうしようかと戸惑っていると、カップルの男性が「親子だから、母、姉、弟でいいんじゃない?」と提案をしました。ヒップホップ系の格好をした男性は自らを「ペンギン」と名乗りました。カップルの男性は苗字を名乗り(仮に矢田さんとしておきます)女性は「ゆかっち(仮名)です」と名乗りました。どうもお2人は夫婦のようです。そして、女性は「佐々木です」と名乗り、私は「やまだと呼ばれています」と自己紹介。
しかし、前述したようにお互いの顔はほとんど見えていません。頼りは声だけ。

若干の不安を抱きつつも、カーテンの向こうへ行く時間が来ました。
さとちゃんはカーテンの向こうへ皆を誘導します。
補足ですが、この展示においてアテンダントをする人は実は皆視覚障害者なのです。
つまり暗闇のエキスパート。
カーテンという隔たりのこちらと向こう側で我々と視覚障害者の方々の立場は一気に逆転します。暗闇でも目が慣れてくると若干の視覚情報は入ってくるものですが、ここは完全な暗闇です。
何も見えません。目を閉じていても、目を開けていても同じなのです。
ここが広いのか狭いのか、皆はどこに居るのか、もちろんわかりません。
視覚以外の感覚だけが頼りです。
聴覚、触覚、嗅覚・・・
さとちゃんは落ち着いた声で、もし迷ったらすぐに助けに行きます、と心強い言葉を投げかけます。こんな暗闇ですぐに助けに来てくれるの!?と思いますが、さとちゃんにとって見える世界と見えない世界の隔たりはないのです。

一方、さっきまで、寡黙だったグループのメンバーは一気にしゃべりだします。
「えー!」「どこにいるのー?」「見えない!」
メンバーがどんな距離感に居るのかまったく分からないので、白杖でさぐりながら歩きます。
もちろん、体がぶつかったり、物かと思って人の腕を掴んでしまったりという状態です。
そういうときは事前にいわれたとおり「やまだです!」とか「ペンギンです!」と声に出します。
最初はちょっと戸惑いますが、それが暗闇の中では非常に有効な手段だと体で実感できるので、皆どんどんしゃべりだします。
そして私の参加した回ではちょうど矢田さんという男性が積極的に皆をまとめたりするムードメーカーになってくれたので、メンバー内では積極的に会話がなされることになりました。
さとちゃんは我々が居る場所を端的に説明したり、案内してくれます。
「ここはどこだとおもいますか?」
我々はどんどん発言していきます。
「えー、なんか足元がやわらかい!」
「ほんとだー。弟、しゃがみますー」
「やまだもしゃがみますー。おおお、なんか・・・葉っぱがある」
「あ、ここに木があるよ」
「え、どこ?触りたい」
お互いが状況を話しながら、その情報を共有しあい、今居る場所がどこなのかを認知しようとする様は視覚があるときとはまったく異なるものでした。
視覚という情報に頼っている人はそれを遮断されるとこれほどまでにお互いの距離感を縮めようとするのですね。

さらに、暗闇に居るときにあることに気づいたのです。
暗闇にいると、自然と我々は聴覚や触覚などから得た情報からそれをビジュアル化しようとするのです。
今まで自分がしてきた経験などからその感覚に合致するビジュアルイメージを頭に思い描き、その中を歩いているという感じです。
私の場合、博物館などにあるジオラマ展示のように屋内に樹木が植えられているイメージを描いていました。もちろん、ここは実際に屋内なので、そのイメージはそう間違ってはいないと思うのですが、皆はどう思っていたのでしょうか。
その人の経験から構成された世界が多分そこにはあったのだと思います。

さとちゃんが次に行く場所を案内します。
「次の場所には橋があります、ほら触ってみてください」
「ここからおじいちゃんの家に行きます」
「これは何かわかりますか?」
さとちゃんは情報を我々に与えながら皆を的確に誘導します。
我々は感覚をフルに使い、お互いの声による情報を頼りに歩きます。
その間も、足元は砂利になっていたり、風が吹いていたり、水溜まりがあったり(水溜りと書いていますが、もしかしたら小川になっていたのかもしれません)と様々な感覚による体験がありました。
「あ、水だ」
「え、さわりたい!」
「やまださん?こっちこっち」
「え、どこー?」
「これは誰?」
「姉ですー」
「これは?あ、柵か・・・じゃあこっち?」
「やまだです!」
「あ、ここにやまださんいるよ!」
「手を掴んでここまで案内してあげて!」
こんな感じで皆が皆を助け合います。
そう、ちょっと前までお互いしゃべりもしなかったのに、旧知の仲のようです。

次のエントリーに続きます。
2009.03.26 Thursday | 14:02 | comments(0) | trackbacks(0) | おでかけ |